全米のトレンド、ダーク・ファンタジー&ホラーの
要素を盛り込んだ新たな犯罪捜査ドラマ
近年、米TV界では重厚なタッチのファンタジー「ゲーム・オブ・スローンズ」や、「白雪姫」をベースにおとぎ話のキャラクターたちが登場する「Once Upon A Time(原題)」といった見応えのあるダーク・ファンタジーが若者から大人まで幅広い層に大人気。また、一躍ゾンビブームを生み出した「ウォーキング・デッド」や毒気の強い「アメリカン・ホラー・ストーリー」など、視聴者を選ぶタイプのホラー作品が異例とも言うべき高い人気を誇っている。そうした中で2011年秋に放送スタートした「GRIMM/グリム」は、根強く万人受けしている犯罪捜査ドラマに、前述のダーク・ファンタジー&ホラーのトレンドをふんだんに盛り込んだ新しいタイプのサスペンスとして幅広い視聴者にアピールすることに成功。初回放送の裏番組は野球のワールドシリーズがあったにもかかわらず、放送局NBCの新番組の中で最高の視聴者数を記録した。その後も着実にファンを獲得し、現在放送中のシーズン2も安定して好調を維持していることからもファン層の広さが見て取れる。
好感度の高い等身大の主人公と
ユーモラスな裏パートナーが大人気!
ハンターとして活躍する主人公ニックを演じて注目を集めているのがデヴィッド・ジュントーリ。端正な顔立ちは正統派の美男で、グリムとしての使命を果たしながら恋人ジュリエットに秘密を打ち明けられず悩む姿は、誠実そのもの。代々グリム一族に伝わる武器を駆使しながらも生身の人間として闘う姿も等身大で、スーパーナチュラルものではあるがリアルで親近感がわく好感度の高いキャラクターとして多くの視聴者を引きつけている。一方、裏主人公として絶大な人気を誇っているのが、ニックと共に魔物たちに立ち向かう善良なブルットバッドのモンローだ。演じるサイラス・ウェイア・ミッチェルは、これまでにもクセのある脇役を演じてきた個性派俳優で、本作ではダークな映像世界の中でひょうひょうとしたキャラクターがしばしば笑いを誘う。もはや彼なくしては事件は解決しないというほどの存在感で、モンロー・ファンが急増中だ。また、じわじわと人気を集めているのが謎めいた警部レナードを演じるサッシャ・ロイズ。エピソードが進むにつれて、その存在感が増してくるレナードのエキゾチックかつダンディな魅力は大人の女性にアピールしている。シーズン2での展開も含めてレナード=ロイズにも注目したい!
ハリウッドの才能が集結した独創的な視覚効果
本作を語る上で欠かせないのが、毎回登場するグロテスクで恐ろしく、時にユーモラスでユニークなモンスターたちの造形だ。特殊メイクのデザイナー兼クリエイターの要となるのが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『マトリックス リローデッド』『スター・トレック』などを手掛けたバーニー・バーマン。ほかに『アベンジャーズ』や『スター・トレック』を手掛けたステファン・ベトルズなど、ハリウッドの大作映画を数多く手掛ける才人たちが本作のメイクアップ部門に集結。『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』や『オーシャンズ13』を手掛けたジョジョ・マイヤーズ・プラウドのもと、感情が高まると瞬時にトランスフォームする魔物たちの姿を表情豊かに描き、視聴者の目を大いに楽しませてくれる。
大人も楽しめる、緻密に構築された
『GRIMM/グリム』ワールド
本作は基本的に毎回登場するモンスターを相手に、グリムの末裔である主人公が闘うという1話完結もの。ドラマの放送開始前はその設定に人気シリーズ「スーパーナチュラル」と比較されることも多かったが、実際には全く異質の世界観となっている。まず、舞台となるポートランドの深い森に囲まれた街には、昔からグリム一族と敵対する人間の姿をした半人半獣や魔女が存在している。もっとも彼らは全員が凶悪なわけではなく、人間社会のコミュニティにとけ込み害をなさない者たちも少なくないが、「グリム童話」の時代から続く複雑な敵対関係があるため等しくグリムの存在を恐れている。主人公ニックはそうした背景を徐々に学んでいき、刑事であることとグリムとしての責務を果たすことに矛盾が生じることもあり葛藤する。そのような現代の事情の一方で、連綿と続くグリムと魔物たちの闘いの歴史は欧米各国から広範囲にわたって繰り広げられてきたため、さまざまな歴史の中で実はグリムが関わっていた!?という事件も登場。また、グリム一族を滅ぼそうとする種族が存在し、ニックの命を脅かすなど、シリーズ全体を通してある大きな仕掛けがなされているのだが、シーズン1の最終話まで見るとその壮大かつ緻密に構築されたグリムワールドの全貌が見えてくる。これには「よく考えられているな」と感心せずにはいられないのだ。
「グリム童話」だけでなく世界の伝承文学や
怪奇伝説などモチーフとなる多彩な元ネタを探す楽しみ
「グリム童話」をモチーフにした映像作品は古今東西、枚挙にいとまがない。「赤ずきん」ほどさまざまなメタファーとして使われている題材もそうはないし、近年は「白雪姫」をアレンジした『スノーホワイト』や、全米公開で話題を呼んだ、おとぎ話のその後を描いた『Hansel & Gretel : Witch Hunters(原題)』など「グリム童話」の人気は衰え知らず。本作はそうした数多くのクリエイターたちを魅了してきた「グリム童話」を中心に、世界各地に伝わる伝承文学や伝説が随所に盛り込まれている。そもそも現在知られている「グリム童話」は、伝承そのままの初版から何年もかけて子供も読めるように性描写や残酷描写は削除され、誰もが楽しめるマイルドな内容となったいわば子供向けバージョンだ。初版に近いものや「大人もぞっとする 初版グリム童話」などを読むとわかるが、「GRIMM/グリム」のグロテスクで時には異形のものの切なさをも伝える内容はより初版に近く、しかし大胆にアレンジされており、「指輪物語」や「氷と炎の歌」シリーズ(「ゲーム・オブ・スローンズ」原作)、さらに日本の怪談などにインスパイアされたと思われるエピソードもある。毎回本編の冒頭にて活字で紹介される物語からのフレーズの抜粋をヒントにしつつ、今回はどんな伝説がモチーフになっているのかと想像力を働かせ、元ネタとマッチングさせてアレンジの巧みさを考えながらドラマを見るのもまた知的な楽しみがある。
グリム兄弟のルーツであるドイツテイストに
ディテールやギミックの面白さ
グリム兄弟は19世紀にドイツで活躍した言語学者・民話収集家・文学者の兄弟。そのため、「GRIMM/グリム」では当然のことながらドイツに関わる描写や人名を始めとするさまざまな名称にもドイツ語がしばしば登場する。中でも面白いのは、人獣や魔女、魔物といったモンスターたちを表す名称の数々だ。正確なドイツ語だけでなく、それらしく聴こえるドイツ語的な響きのある造語も多く登場し、異国趣味を感じさせてグリムワールドを構築する重要な要素の一つとなっている。また、ドラマに登場する凝ったアイテムなど作り込まれたディテールも魅力の一つ。おばのマリーから譲り受けたトレーラーには祖先たちが記した魔物たちの特徴や弱点、闘い方を記した分厚い書物があり、毎回倒すべき魔物が現れるとニックはそれを頼りに同じくトレーラーにぎっしりと詰まっている武器の中からふさわしいものを探す。それは時にいかめしいクロスボウだったり、巨大な銃に斧や剣、さらには貴重な毒薬や調薬された液体などで、古ぼけた科学実験室のような趣もあり全編に散りばめられたギミックの数々はマニア心をそそるものがある。また、本作は舞台となっているポートランドで実際に撮影が行われているが、ポートランドの豊かな自然と常に曇天の空模様は「グリム童話」に登場する深い森をほうふつとさせるものがあり、幻想的でどこかおとぎ話めいた異世界の雰囲気を盛り上げている。